
パヴェーゼ 渡辺由利子・関口英子 訳『美しい夏』(光文社古典新訳文庫)
更新日:9月7日
いくつか思い入れの深い文庫本というのはあるけれど、この『美しい夏』の旧訳(岩波文庫版)はそんな一冊だった。
あまりにも有名な冒頭の箇所をお客さんに読んでもらいたい気持ちで、これまでもなんどか紹介し、お店でも売った。ただ、正直にいうと、お話の筋自体はぼんやりとしか理解しておらず、16歳の主人公ジーニアが、恋愛のなかで傷つき、振り回されていく物語という印象が強かった。
冒頭のアクセル全開の美しさと比べて、なんとなく消化不良の物語だったわけだ。だからおすすめするポイントは、パヴェーゼの書く美しい情景であったり、その悲劇的な死の直前に、この作品がストレーガ賞というイタリア最大の文学賞を受賞していることだったり、どちらかというとすっきりしないものだった。
その新訳が出るとあって、期待しながらも「やはりあまり理解できなかったらどうしよう。」という不安もあった。
が、そんなものは杞憂であった。
読み始めると自分は16歳の少女ジーニアになり、20歳の大人になりたてのアメーリアになった。
背伸びしているような好奇心と、すこしのことで揺れ動く心をコントロールできないもどかしさ。たった4歳しか違わないのに、自分がずいぶん大人になったかのように、ジーニアをみつめるアメーリア。品定めするような男たちの視線、と、それすらも軽やかにさばく強かさ。ジーニアの兄セヴェリーノの不思議な存在感。
彼女たち彼らの心の動きが、すんなりと入り込んでくる。
最後のジーニアの言うセリフは、こちらもまた大好きな小説『地下鉄のザジ』の「年をとったわ」並の素晴らしいセリフ。(しかし、出だしも締めも名シーンの小説は『美しい夏』に軍配。)
訳者のひとり渡辺由利子さんの書く解説は、パヴェーゼのひみつをひとつ解き明かしてくれるような発見のあるもので、これがまた新訳を読む楽しさをひとつ追加してくれる。
光文社古典新訳文庫のテーマ「いま、息をしている言葉で」読むという喜びをこれほど味わわせてくれる作品はなかっと思う。
夏は過ぎても、店で、そして秋の催事でもたくさん売りたい!
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